綾鷹カワウソ妄想譚

一生涯の愛をこめて

魔術師はそこにいる。

22歳の時、失恋をしました。
お付き合いしていたのは大学の2つ下の後輩で、僕は社会人1年生。

僕は彼女と結婚しようと思っていたので、早く偉くなるために、たくさんお金を稼いで楽をさせてあげられるように、せっせせっせと日々仕事に励んでいました。

きっとそれがいけなかったんだと思います。


別れの数年前、ふたりともまだ学生だった頃に二人で街を歩いていると1台の高そうな白い車が目の前を通り過ぎました。
その車の中では僕らと歳のかわらないカップルが楽しそうに笑っていました。

 

彼女がその時なにげなく言った「いいなあ、しあわせそうだなあ」というつぶやきが僕の心に深く突き刺さりました。

当時僕は既に実家を出ていて一人暮らしなうえにろくにバイトもせずサークル活動ばかりやっていたのでとても貧乏だったのです。
彼女に気の利いたプレゼントひとつ買えない甲斐性なしで、僕はそんな彼女に「いつかオレたちも乗ろうよ」としか言うことしか出来ませんでした。

 


社会人になって、働いて働いて働きまくった一年が終わるクリスマスイブ。彼女は僕に別れを告げました。理由は覚えていません。僕はただだまってうなづいてそれを受け入れました。

 

そのクリスマスの数日後、「あの時の車」が納車されました。
社会人になってはじめての年末ボーナスを頭金にして「あの時の車」を買っておいたのです。彼女と乗るために。

 


僕は彼女のいない助手席をうすぼんやりと感じながらひとりで海辺の高速道路をどこまでもどこまでも走りました。


それから3年。
僕はその車で走り続けました。それこそ東京から北海道まで行きました。
何万キロも走りました。
あちこちぶつけもしたし、故障もしました。
それでも直してただただ、走り続けました。

 


ある日、その車に乗って会社の用事で某銀行に行くと、社内ですこぶる評判の悪い女性社員とたまたま顔をあわせました。僕は軽く会釈だけして遠くに座りましたが、なんだか様子がおかしい。仕方なく声を掛けると彼女はぐったり青ざめていました。
仕方ないので僕はその女性社員が勤務する支店まで車で送ってあげることにしました。

 

あの彼女が乗るはずだった助手席に初めて座った女がすこぶる評判の悪い女性(おまけに顔色もすこぶる悪い)・・・。

それが今の奥様です。

 

ああ怖い怖い。怖すぎる。

ちゃんちゃん。


GachifloZ

 

 

 

お題「大失恋をしたときどう立ち直りましたか?」