綾鷹カワウソ妄想譚

一生涯の愛をこめて

ある夏の悲しい覚え書き

諸事情により休日に家にいることが許されていないため11時ころに自宅を出た。
あてもなくブラブラするのは得意なんだけど、14時には自宅に戻ってよいとの許可が出ていたので「まあ3時間くらいなら」とiphoneの充電器を持たずに出た。

 

駅についていつものように路線図を見上げ「今日はどこへ行こうかしらん」とボケーっとしていたらあまりの暑さに「行って、帰って、ちょうど14時くらい」のところまで電車で行くことにした。電車の中は涼しいから。

 

都内から往復で3時間というと横浜は近すぎるし宇都宮は遠すぎる・・・というわけで久しぶりに小田原に行くことにした。小田原はいつか住みたいと思っていた街のひとつ。小田原へ行ってしらす丼でも食べて、時間があればちらっとだけ御幸の浜の海を見て帰ろうと小田急線に乗り込んだ。

 

のんびり電車にゆられ、iphoneしらす丼の美味しい店などをふむふむと調べていると思いのほか電池残量が減ってきていた。まあ駅のそばのコンビニかなんかでレンタル充電器を借りればいいやと気楽に思いつつ小田原駅に着いた。

 

ネットで調べたしらす丼の有名店に行くとやはり行列が出来ていた。でもせっかくなのでと名前を待機簿に書きこんで並ぶことにした。僕の前には4組くらいの人たちが待っていた。ふと周りを見渡すとたまたま店の向かいにコンビニがあったので、そうだここでレンタル充電器を借りようとコンビニに入った。

 

 

嘘だろ① 
レンタル充電器を借りようとQRコードにカメラをかざしたところ、QRコードを認識しない。認識しないというよりは認識したURLに飛ばない。何度やっても通信エラーになる。飛行機モードにしたり、iphoneを再起動したり、いろいろ試したが状況が変わらない。ましてや何度も何度もそんなことをやっていたら更に電池残量が減ってしまった。場所が悪いのかもしれないと思ったが、しらす丼の待機リストに名前を書いてしまっている以上そんな遠くには離れられない。しかたないのでとりあえずコンビニを出てしらす丼屋へ戻った。

 

 

嘘だろ② 
しらす丼の店頭にある待機リストを見ると先ほど書いた自分の名前にすでに△と斜線が引かれていた。どうやら名前を呼ばれたが不在だったので後回しということらしい。どうしようどうしようと思案していたら店員が出てきて僕のあとに書き込んだ人たちを店内に呼び込み始めた。
こんな時「あっ、すみませんコレ私なんですけど」と店員に声掛けをできればいいのだが、そこは天性のコミュ症なのでそんなことは切り出せない。絶対に。もう仕方ないと諦め唇を噛み締めながらその店を離れた。

 


嘘だろ③ 
「とりあえずiphoneのバッテリーレンタルが先!」と、別のコンビニを探した。さいわいすぐ近くにレンタル充電器が置いてあるコンビニがもう一軒あり、レンタル出来る充電器も1個だけ残っていた。心底ホッと安堵した。しかもそこは微弱ながらも通信が出来、QRコードからレンタル手続きが無事行えた。カチッと親機から外れた充電器を取り出そうとしたその瞬間、汗でスッと充電器が手から離れてしまい充電器は親機に吸い込まれるようにカチっとセットされてしまった。えっ!と声を出す間もなく「返却完了」のサインが出た。「いやいや返却じゃないって!」ともう一度充電器を取り出そうとするも、すでに親機は僕の最後の1個の充電器を充電するモードに入ってしまい取り出せなくなっていた。

 


嘘だろ④ 
呆然としながら僕はさらに別のレンタル充電器を求めてさまよった。次に見つけた充電器を慎重すぎるくらい慎重に操作しながらなんとかレンタルに成功。ふたたびしらす丼の店を探し始めたが、どこにもしらす丼の看板のある店がない。ネットは相変わらずつながらないし、36度超えの猛暑の中、僕は汗をダラダラ流しながら小田原の街をさまよった。蜃気楼でも出そうな暑さの中、店先にしらす丼ののぼりの出ている店を見つけ、僕は勇気をふりしぼって店内に入った。


席に案内されお水とおしぼりを出されたところで「すみません、今日はお刺し身系がもう終わりで、コレしか出来ないんですが』と言われて店員が指を指したのが「しょうが焼き定食」「野菜いため定食」「ハンバーグ定食」だった。
もう涙が滂沱のごとく溢れ出てくる中、勇気を絞り出して「ごめんなさい・・・また来ます・・・ごめんなさい」と店を飛び出した。心が引き裂かれそうだった。

 

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ま、その後とってもきれいな海を見て、綺麗なビキニのお姉さんを見て、量はとっても少ないけれどとても美味しいしらす丼を食べて、今日はほんと大変だったからと帰りは奮発してロマンスカーに乗って帰った。日陰になる側の窓際の席で流れ行く景色を見ながら僕は「ああラッキーだなあ」と思った。



今日の敗因はなんだったんだろうと考えた。

やっぱり型落ちの娘のお古のiphoneを使っている以上、携帯バッテリは持ち出すべきだったこと。帰宅後に調べたら小田原駅周辺はドコモの電波が全く入らないので有名らしかったのだが、型落ちのiphoneを使っている後ろめたさから「きっとこのiphoneに原因があるはず」と思い込んでしまったこと。待機簿に名前を書いたのにまだまだ先だろうとその場を離れてしまったこと。ろくに調べもせずランチタイム終わりに店に飛び込んだこと・・・。

 

家に戻って少し横になり、スパイスカレーを作った。
なんか不思議と上手く出来て、とても美味しかった。
でもとても疲れた。やっぱり少し悲しかった。


GachifloZ