綾鷹カワウソ妄想譚

一生涯の愛をこめて

働くよりも呼吸をしていたい

いわゆる社会福祉関係のお仕事についてずいぶん経つ。それまではいわゆるバリバリの営利産業で当然ながら売上至上主義。利益率やら時間当生産性やらをいかに高めるかしか考えていなかった。自分の親父ほどの年齢の部下を叱咤し、新人はコキ使い、自分も死ぬほど働いた。

だけどある日ある時ある出来事から机をひっくり返して辞めてしまった。

とりあえずヤクザやらチンピラ、クレーマーに頭を下げ続けるような仕事はもうしたくなかった。ネクタイを締めただけの若造に頭を下げて仕事を発注してもらうのも本当に嫌だったし、親父ほどの歳の営業マンを呼びつけて価格を叩くのも嫌だった。社歴だけの上司と行きたくもないフィリピンパブにお付き合いするのも本当に嫌だったし、ギャンブルと女遊びと毎度おなじみ「昔はヤンチャしてて」自慢しかない職場の雑談が嫌で仕方なかった。

今では仕事ってそういうもんだとは思っているし、多くの人が今それに耐えて歯を食いしばって生きているのもわかっているけれど、嫌なものは嫌だったんじゃ。

だから転職の理由を聞かれてもたいていはお茶を濁す。甘えとか言われちゃうし(フザケンナ)。それでも話さなければならない時は「尊敬する企業経営者がその道に進みまして、自分もチャレンジしてみようと思いましてですね・・・」とかなんとかテキトーに答えている。本当は芸術家になる度胸もなく自営業を営むのが面倒くさかっただけ。

ゼロではなくとも出来るだけ薄汚い商戦を戦い抜かなくて済むようなビジネスライフを望んだだけ。あ、あっまーい!でも給料少なくてもそれなりには生きられる。覚悟があれば好きなことをして生きていくのは悪いことじゃない。
でもそんなこと話しても理解は得られない。だから話さない。めんどくせーもん。


しかし高齢者福祉にせよ障害者福祉にせよ児童福祉や生活困窮者支援にせよ、こーゆー社会福祉と呼ばれるような仕事をしていると多くの人から「まあまあご立派ねえ」とか「偉いわねえ」とかいう言葉が返ってくる。僕はそれが嫌で嫌でたまらないので「ご職業は」と聞かれたらたいていは「ええまあ、ふつうの会社員で」と答えている。産業スパイでも屋台のテキ屋でもなんでも好きに想像してくれればいいと思う。

そーいえば医療関係だと(「立派」はともかく)あんまり「偉い」と言われないような気がする。似たよーな業種なのに。医者も看護師も稼いでいるイメージがあるからか。よーするに社会福祉産業を「偉い」だの「立派」だの言う人は結局「薄給なのにごくろーさん」ってことなんだろう。バカにしやがってー。当たってるけど。

実際のところ福祉関係のお仕事だからって偉くもなんともないし、立派でもなんでもない。株取引で口に糊しようが恵まれない子供たちのために尽力しつつ薄給で生きようが、本人が好きでやっているのだから誰にどうこう言われる筋合いはない。もちろんそんなの単なる社交辞令で誰も本心から偉いなんて思ってやしないのもわかっているが、とにかくなんかいい気分がしないのだ。オレは絶対人の職業なり就労動機を聞いて偉いとか立派とかうらやましいとか、そんなことを言わない人間でありたい。


今週のお題「今の仕事を選んだ理由」