綾鷹カワウソ妄想譚

一生涯の愛をこめて

緑の恐怖


ずいぶん前に安全管理上やむを得ず会社の壁を(もちろん上司の許可は得た上で)一部ぶち壊した事がある。くどいようだがきちんと上司の了解は得ていたが、先日俺がいない間に「そういえばあの人会社の壁を壊してたよね」という話だけが一人歩きしだし、結果なぜか懲罰を受ける…という夢を見た。

俺がいない間の話だから当然俺に反論弁明の機会は無く、さらには「あの人ちょっと頭おかしいから」という実にリアリティのある刷り込みも相まって「俺の罪」はいつの間にかさらに尾ひれ背びれがついた形で確定されていった。

人づてにその与太話とも言える現在の状況を聞いた俺は「何言ってんだコイツ?」と開いた口がふさがらなかったが、事態は既に後の祭り状態だった。

それまではなんだかんだ慕ってくれていたOLちゃんたちの視線も冷たく、「おじいちゃん戦争で人を殺したんでしょ?この人でなし!もう近寄らないで!」と孫に責められているような気分である。もう涙無しにはランボーを見られないんである。

クソしちめんどくさい現場で誰もが立ち上がらず、一人矢面に立たされ四苦八苦しながらなんとか窮地を切り抜け、その時は「流石だ」「プロだ」「やっぱり変態だ」と重宝がられおだてられ崇められていてもひとたび事態が落ち着けばやれ「ああするべきだった」「こうするのが正しい選択であった」「身勝手な行動」「ヒーロー気取り」「手続きが不十分で不適切」…って、あくまで夢の話である。汗びっしょりで俺は目を覚ました。


夢の話ではあるが、似たような実体験はある。
まだ20代なかばの頃、俺はある営業所を任されており、その担当エリアのヤクザ客に日々頭を悩ませていた。

ヤー公はことあるごとに難くせをつけ、威丈高に法外な賠償を求めてきた。当時の俺は前髪さらりの若々しい美青年だったからきっと良いカモだと思ったんだろう。そしてご多聞に漏れず俺の上役は「そんなもん払えるか!自分でなんとかしてこい!そんな要求など毅然として突っぱねろ!テロには屈しないぞ!原発再稼働反対!代替エネルギー埋蔵金で!」の一点張りであった。
バブル期に急成長した会社ゆえ人材不足で上役になっただけの無能なおっさんだったから、こちらはこちらで若き有能で美青年の俺に相当なやっかみがあったんだろう。俺はヤー公とアホ上役との板挟みで激しく消耗しつつ、一人徹底抗戦をしていた。お父さんと喧嘩した事もないのにっ!

やがて事態は1年戦争のごとく膠着状態となり、結局その上役がヤー公に呼び出される事になった。
すると俺には関西弁丸出しで汚い罵詈雑言を浴びせていたヤー公が一転「本当に困っているんです…私もこんなことで苦情を入れたくはないんですが、こちらの方(俺)があまりに頑固で理不尽で…」と平身低頭泣きを入れはじめた。

もちろんこんなのは光文書院発行のチンピラ教科書通りの常套手段なので俺としては「よーやるよまったく」という感じだったのであるが、上役は上役でヤー公と喧嘩しなくて済みそうだと安心してしまったのか、それまでは「俺がビシッと言ってやる!子育て世代には一律5万円支給!」とのたまっていたのがこちらも一転「それはこいつ(俺)が悪いですね!厳しく処罰しますのでなんとか穏便に」と平謝りに謝りまくりしてしまった。そして結局要求通りの額を支払う事を確約してしまうのである。バカ丸出しである。教育出版発行の「明るいアホ上司」そのまんまの短絡的な対応である。まあ世の中そんなもんだけどさ。

いちおう俺も「要求通り払うならこども店長でもできますよ!あなたが払うなと言ったんでしょう!?」とカタチ上は上役に抗議したが結局自分でもそういう猿芝居がアホらしくなり、その数ヶ月後に机をひっくり返し会社を辞めてしまった。
これも今思えばバカバカしい短絡的な行動なのだけれど、なんというか俺は俺で閉塞感いっぱいで、きっとレールを外れてみたかったんだろうと思う。


なんだかんだでその後の俺はのほほんと暮らしている。
収入は人並み以下になったけど、労働時間も人並み以下になってたくさん本を読んだりたくさん映画を観たりたくさん散歩ができるようになった。

ただそれでもあのままあの会社にいたらどうなっていたかなあとは時々思う。

けれどあれこれ想像してはいつも最後には「やっぱ辞めてよかったー」と思う。
だって楽しいもん、今。GASPのTシャツも届いたしw


GachifloZ

追伸
ちなみに僕は原発再稼働慎重派です。
あと教科書にはチンピラ学科もアホな上役学科もありません…と、ちょっと日和って書いておきます。