綾鷹カワウソ妄想譚

一生涯の愛をこめて

WALL OF DEATH(まいにちがにちようび)


職場のすぐ裏のビルの裏に小さな鳥居がある。
行き交う人のほとんどは気づきもしないその小さな鳥居の向こうにはさらに小さなほこらがあって、その両脇にはこれまた小さなおキツネ様が二匹向かいあわせになってその祠を守っている。
僕はここのところ毎日その祠を訪ねては「キツネ様ツネ様、悪霊退散、悪霊退散」と手を合わせている。


毎日毎日好き放題に暮らしていてまさに人生やりたい放題。
やりたいことを全部やって、やりたくないことは全部せず、毎日遊び呆けてばかりだ。

でも遊び呆けながらも心の中では「こんな生活をしていたら絶対バチが当たる。絶対当たる。楽しければ楽しいほどとんでもない不幸がハバネロ背負ってやってくるに違いない。恐怖の大王か世紀末覇者かあるいは霊幻道士か」と四六時中ビクビクしている。

えっちな事を考えている時も、ロックバンドのLIVEで激しく頭を振っている時も、頭の片隅ではそんなえも言われぬ恐怖がしっかり鎮座ましまして僕の脳髄を怯えさせている。僕はそれが嫌でたまらなくてなんとか逃げ出そうとするのだけれど、これがレベッカのMOONよろしくどこまで言ってもどこへ行っても消えることがない。悪霊退散悪霊退散。

やがて連日のキツネ様参りが効いたのか、帳尻を合わせるかのようにお仕事でロクでもないことが続くようになった。世の中うまく出来てるなあと感心しきりだが、これはもうやっぱりキツネ様のおかげだ。

嫌なことはもちろん嫌だけど、むしろこれで大手を振って遊び歩けると考えればそれはもうチャラでラッキー。だって仕事でどれだけ大変といったところでたいていのことは克服できる。知恵と勇気でどうにでもなる。どうにでもならなければ逃げ出すことだって出来る。僕が怯えていたあのキョンシーどもに比べれば仕事の苦労なんて蚊トンボみたいなもんだ。


昨日2号が「なぜ人は死ぬのか。なにも別に死ななくてもいいんじゃないか」と実に小学生女子らしい可愛いことを言い出したので、僕は「あのな、すべてのものは小さく小さく小さくしていくとクオークという物質になり、この世界の中でクオークの総数は一定で増えも減りもしない。幾千年前に死んだ恋人のクオークのひとつがキミの身体の ・・・」としゃべっている間に妖怪ウォッチの話題になっていた。2号はキュウビ激ラブなのだ。親子揃ってキツネ崇拝か。

ちなみに「妖怪ウォッチ」よりも「溶解ウオッチ」のほうがなんか怖くね?
ドロドロに溶けていく人々をじっと眺めてる図を想像してしまう。


先日ベビメタちゃんロンドン公演のLVがお台場のZEPP東京で朝4時からあった。僕の中でBABYMETALは日本での活動を既に終了しているので、FCイベントやら夏フェスやらには全く行くつもりがないのだが、海外公演の生中継ならこれはもう「見てみたい!」と眠い目をこすりながら深夜2時過ぎに首都高を走っていた。

こんな時間に走るのはおよそ10年ぶりくらいで、「35GTRとBRZあたりがバトっているのではないか」「ひょっとしたら今も星のついた73カレラRSと片輪を上げた白いロータスが走りあっているのではないか」と僕はきょろきょろ辺りを見回しながら走っていた。

でも走っているのは一番星どころかなにひとつデコってもいない真面目そうな長距離トラックばかりで僕はちょっと寂しくなった。なんか悪い人が減ったぶん、いい人も減っているような気がする。イケメン俳優はたくさん出てくるけど、川谷拓三みたいなのはあんまり出てこない。

時には制度であったり、時代であったり、いろんな要素が全てを平均化していっていると思うのだけれど、だからといって世界がつまらなくなっているわけじゃないはずだ。平均化が進めば進むほどレールを外れたヤツが目立つというもので、例えば反逆のアイドルBiSの解散は惜しくてならないし1年早かったような気がするが、それもまた反逆なのかもしれない。

ベビメタちゃんのロンドン公演が終わって外へ出るとすでに明るくなっていた。でも梅雨時ということもあり街並はぼんやり白く煙っていて、帰りの首都高を走りながら僕は「ああ夢みたいだ。なんか全部夢みたいだ。」と思っていた。

よく「いいトコ取り」という言葉を聞くけれど、たぶんそんなのありえないと思う。絶対どこかで代償を払っているはずだ。それが過去なのか、現在進行形なのか、未来の出来事なのかはわからないけれど、たぶんそれはきっとそうなのだ。そうでなければおかしい。
チッとうらやむようなヤツは実は哀れで、オロロンと哀れむようなヤツは結構毎日楽しく暮らしているに違いない。

いいことがあれば悪いこともある。悪いことがあればきっといいことがある。それがキツネ様の守る世の摂理というヤツだ。ロン毛のお兄さんもきっとそう教えてくれているはずだ。

GachifloZ